『弥勒の手』 by 我孫子武丸 : ミステリというよりは佳作サスペンス?
こういう人にオススメ!
- さくっとちょっと変わった小説が読みたい人
- 宗教モノに変な反応しない人
評価が別れるのは主題がハッキリしないから
ひとくちにミステリ、と言っても「楽しむもの」は色々分かれている、と思っている。
- トリック:本格。論理性が重視。
- 心理:犯罪者心理 or 被害者心理
- 雰囲気:ハードボイルド等。猟奇的なものも。
- スリル:ミステリ、というよりサスペンスとなる。
- どんでん返し:意外性を重視。叙述ミステリ。
- 知識:あまりないが、歴史物など。
で、勿論これは単体で含まれるわけではなく、名作、と呼ばれるものは複数の要素が入っているんだけど。
で、この弥勒の手、はいろんな部分をカバーしながら、ハッキリしないので、どれを主眼に置くか?で、評価が別れてしまう。高評価なのは、短編ながら色んな要素をカバーしているので、それなりに満足度があるということ。低評価なのは、その要素もそれほど高いレベルじゃないこと。特に『殺戮にいたる病』が「心理」+「雰囲気」+「どんでん返し」の名作だったから、それを期待した人からは厳しく評価されている気がする。
これ単体で見れば、佳作レベルには十分あるので、読んで損した!という気にはならないことは、保証できます。
- 作者: 我孫子武丸
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/03/07
- メディア: 文庫
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以下、少しネタバレ含みでもう少し考察。
もうちょっと考えた
『弥勒の手』は本当に惜しい作品だな、と思う。
新宗教を題材としているので、それを掘り下げていくと、「知識」や「スリル」を高めることが出来たろう。
被害者が二人いて、それぞれ立場が違うので、その心情をもっと描けば、「心理」への満足感を出すことが出来たに違いない。
叙述物、と紹介されているので、「どんでん返し」への期待値が高まった割に、その事実、千秋の正体が、それほど驚きを持たなかったのも残念なところ。
正直、我孫子武丸が、どの部分を主に描きたかったのか、がよくわからないのだけど、解説によれば我孫子武丸本人は、
正統派な推理小説。警察小説ではない
あるいは、
構造的にはサスペンス
と書いているそうだ。よって、「雰囲気」と否定していて、「スリル」も否定している。なんとなく、上の書き方から、正統派、サスペンスに見せかけて、実はそうではなかったんだよーん、というどんでん返しでビックリさせる、を狙ったんじゃないか、という気がするんだけど、それならば、もっと正統派テイストを高めるべきだった、ということと、裏表紙にこんなこと書いちゃいかんわな。
驚天動地の結末があなたを待ち受けます。
ワンアイデアで勝負するのは、厳しい時代です。