『メルカトルかく語りき』 by 麻耶雄嵩 : これってミステリ?と最初は思ったんだけど、作者のサイトを読んで分かった。なるほどミステリです
こういう人にオススメ
- アンチミステリに憧れるひと
- 深く物事を考えるひと
何も前提知識なしに読むと、この作品の真の姿は分からないかと。
これってミステリに入れていいの?
麻耶雄嵩については、『螢』を読んだことがあるだけだった。『螢』はある仕掛けこそあったものの普通のミステリの範疇だった。しかし、メルカトル鮎シリーズは違う。
- ミステリが読みたい! 2012年版 2位
- 本格ミステリベスト10(2012) 2位
- このミステリーがすごい!(2012) 7位
いや、すごい受賞だ。しかし、これってミステリーなんだろうか?探偵が出てきて、推理さえすればミステリーなの?
推理小説(すいりしょうせつ)は、小説のジャンルのひとつ。主として殺人・盗難・誘拐・詐欺など、なんらかの事件・犯罪の発生と、その合理的な解決へ向けての経過を描くもの。
が、もし定義だとすれば、あっているよな、あっていないような。いや、解決していないよね?
作品の奥にあるもの
ネタバレ、入りまーす。
「答えのない絵本」に犯人はいるのか?
「答えのない絵本」について、犯人が実はいる、と深い考察をしている人がいる。しかしながら、やっぱりいないんだと考えている。
根拠は、講談社のサイトの作者の解説。
『メルカトルかく語りき』 麻耶雄嵩|あとがきのあとがき|webメフィスト|講談社ノベルス|講談社BOOK倶楽部
『メルカトルかく語りき』に収められている短編の中で、一番最初に書いたのは「答えのない絵本」です。
あ、そうなの?
これはメフィスト学園のシリーズの一環で、単発作品として書いたものですが、書き終えたとき、「さすがに、これは額面通り受け取ってくれないだろうな」という不安が強く過ぎりました。
「額面通り」= 犯人がいない。このまま受け取ってくれない不安、ということは、額面通りが正しい、ということ。
犯人当てというか、ロジック重視のミステリとしては袋小路の作品で、それはそれでいいのですが、塀で囲まれた曲がり角を一つ曲がったところにゴール地点があるので、誰もゴールの旗に気がつかないというか……。
袋小路 = 論理的には犯人はいないってこと。そのゴールがひとつ曲がったところ=犯人がいない、という結論。
ならば、要所要所に目印となる旗を立てた方がいいだろう、つまり短編集の形になったときに同趣向の短編で徐々に毒を強める形になっていれば、読み手も最後には免疫が出来ているんじゃないかと、いわば橋渡しの意味合いをこめて書いたのが、「死人を起こす」から「収束」に至る三つの短編です。
同趣向っていうのは犯人に凝っているってこと。
「死人を起こす」→ 不明。 「九州旅行」→ 不詳。 「収束」→ 不定。 「答えのない絵本」→ 不在。 *「密室荘」→ 不定
となっていて、結局全ての作品で犯人は分からない。犯人がわからないことを論理的に導く、それがこの本の趣旨なのだろう。でその究極がいない、という結論。
でも、それって受け入れられる??