『中級作家入門』 by 松久淳 : 入門ではなく解説、野卑滑稽なバブルのユーモア
カドカワはやっつけすぎる
カドカワでは以下のような紹介になっているんだけど
http://www.kadokawa.co.jp/product/321309000144/
10年以上のキャリアを持ちつつ“中級作家”を自称する著者が原稿料の仕組みや本の売り方、編集者との付き合い方などリアルな作家ライフを完全公開。黒い笑いと作家志望者へのお役立ち情報が詰まった実用エッセイ!
この説明は作者の意図をまあったく汲んでおらず、ほとんど読まずに勝手に編集者が書いたのではとしか思えない。もしくは願望?この本には、作家志望者へのお役立ち情報は含まれていないし、実用性も無いです。自虐的に赤裸々に、中級作家の生態を綴っただけのものです。本気の作家志望者が入門として買ってはいけない。中級作家になるための入門書、ではなく中級作家を知るための入門書、だ。
さすがに作者の説明のほうが的を射ている。
もっとリアルな、印税や原稿料から映画化などのお金の話、雑誌や書籍の変なルール、発売後の本の評判やたどる運命などを、あからさまに、しかしとても笑えるように書いてみました。
で、もう一点、読む前に気をつけるべきが以下のところ。
昭和感丸出しのたとえやフレーズの平成の若者向け解説までしっかりと。お得。
この「昭和感丸出し」っていうのが、かなり読む人を選ぶ。全編に渡る昭和感というのか、バブル感というのか、ホイチョイ感というのか、なんなのか。う~んこれはちょっと中身ない記述だな、速読!とか思って飛ばしてしまうと、いつの間にか本編までが終わってしまう。知識よりユーモアの部分が本体なのだ。
Google Booksとかで一章分くらいは読めるので、ちゃんと判断して読みましょう。
良い所を書いてみる
作者が「ネットは気になる」で次のように書いているんで、ちょっと反省。踏まえて書く。
ネットの素人でもプロの物書きでも、批判することで自分の立ち位置を決める人より、「褒め芸」の人のほうがよっぽど難しくてすごいことをやってるし、実際「長生きしてる」。
この作者のノリが好きな人は、じっくり読むと気づきがポコンポコンとあってニヤリと出来る。これでもかとばかりに散りばめられたユーモアの数々について、元ネタを想像する楽しみ。丁寧で詳しい脚注が付いているので、分かる人には答え合わせが、わからない人でも答えにたどり着くことが出来る。
さらに感心するのがこの文章力。一つ一つの章に書かれている事実はとても些細な事。それをぐいっと一章に引き伸ばし、併せて一冊の本にしてしまうその能力はまさに中級作家ならでは、と唸らされる。この本が入門書として最も役に立ち、作家希望者が見習うべきではないか、と思う。
HONZはすごすぎる
この本はHONZのレビューで知ったのだけど、今そのレビューを読み返すと、そのレビューの素晴らしさに感心。これがプロレビュアーというものか、と。
全部で12段落のレビューだが、最初の段落で概要を説明した後、次からは作者自身の略歴が延々語られる。本書の内容とは悲しいほどに関係がない。最後の3段落目になってようやく本の内容にちょっと触れたか、と思うやいなや、次は作者とさえも関係がないレビュアーの思い出話。で、最後の段落でまたほんの少しだけ感想が入って締め。今見返してみると、実は読んでいないんじゃないの?とか、読むの辛かったんじゃないの?とかよくない気持ちが出てしまうが、最初にこのレビューを読んだときは全く気が付かなかった。この本の売りであるタイトル良さを出来るだけ損なわせない素晴らしいレビューだ。
- 作者: 松久淳
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2014/02/14
- メディア: Kindle版
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